2009年9月26日土曜日

forgotten memories a01


  *あるインターフェイスの回想

 現在、私の余剰稼動時間は50年ほどで、彼の稼働時間は-450時間ほどである。

 彼は、様々な記録に残る彼の姿からは想像つかないほどに普通だった。穏やかで、ナイーヴで、幼く、そして優しかった。その印象は最後まで変わらなかったと言ってよい。
 彼と初めて対面した瞬間に私は任務の大半を終了しており、以後の具体的な行動についてはほとんど何の指示もされていない。あとはただ生きるのみである。命令系統はその時点で既に途絶している。
 事前工作は滞りなく、私は彼以外の全ての人とっては”縁戚かつ隣人”として彼の日常に溶け込んだ。彼には事情の全てを話した上で、以後の私の処遇、私の接し方を一任したのだが、彼は大変に混乱したにも関わらず、「普通の友人のように接してもらえれば良い」という種の発言を行った。大物、というよりは深く考えていなかったのだろう。いや、考えることを放棄していたといったほうが正しいか。それほどまでに私の発言は、いや、私の存在は突拍子も無いものだったのだから。
 いずれにせよ、彼のその発言が私達の運命を大きく決定付けることになったのだ。
 私はこれまで多くの時間を彼と過ごした。私の思考は殆ど全て彼の事で占められていた。

 私に託されていた任務は三つ。

 第一に、彼と接触する事。
 第二に、第一の任務後、何の変化も発生しないようで有れば彼を殺害する事。
 第三に、可能な限り彼の観察を継続する事。

 全ての任務を完遂した時点で、私は何の意味もない存在となった。砂漠や荒野、ジャングル等、ありとあらゆる紛争地帯に散逸する鉄くず達や、遥か上空、墓場軌道を漂流し続ける巨大なデブリ群と同じである。
 余剰なのは時間などではなく、私自身なのだ。

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